Oh my God!!

 

地面に膝をついて見上げてくる少年に、青年は困ったように笑って問い掛けた。

「いい加減諦めないか?アレン」

「いやですよ、ブラザー。僕は諦めが悪いんです」

知っているでしょう?とニッコリ笑う少年はぼろぼろで、全身埃にまみれている。僅かに傷も負っているのか、血や泥の汚れも少量ずつだが彼方此方に多数見受けられる。

普段は白と黒の対比も美しい清潔な姿をしているのに。

せっかくの白雪の色が台無しだと、少年をそんな姿にした張本人は自らの所業を棚に上げて内心溜息をついた。

赤色が似合わないとは言わないが、生憎と今の姿ではいただけない。どうせ赤を加えるなら、土泥の汚れが一切ないまっさらな黒白に大量の血の赤を。

弟の血は鮮やかな美しい深紅だ。

その白い肌にこの上なく映えるだろう。

思わずその様を想像し、ぱっくりと開いた闇のような笑みを口唇を引き裂いて作った所で弟からの胡乱な眼差しに気付いて、慌ててきっちりと唇を閉じて笑って見せたが誤魔化されてはくれぬようで、永久凍土の眼差しをむけられてしまった。

しかし言い分けさせてもらえば、彼としても傷なんてつける気は微塵もなかったのだ。ただ弟君が思いの外強固に反抗するものだから、ついつい力の行使が行き過ぎてそんな姿にしてしまったわけなのだが。

「なぁアレン。そんなに嫌がる事ないだろう。たいした事ないって」

安心させるようにご婦人方に人気の甘い笑顔。

だけど弟の形相が途端に呆れから一転し、ギロリと憎々しげに睨まれた。ちょっと命の危険を感じてドキドキしてしまうような眼光だ。冷や汗が伝っていったのは気のせいじゃないだろう。

「なに言ってるんですか。大した事あるに決まってます!!なんですか!そのちょっとヤらせてくれって!!」

「いや、その気になったから」

本当になんの気もなしに、話の拍子にちょっと笑って見せた顔が可愛くて。そんな気になってしまったから、素直に申告してみただけなのに。そんなに怒ることもないだろう?

「だったら商館にでも行ってください!!なんでよりによって弟に手を出そうとするんですか!貴方は!!」

「なりゆき?」

怒り心頭の弟に、可愛らしく小首を傾げてのたまう。事実なりゆきだったから、嘘を嫌う弟に合わせて真実を告げたのに。

しかしこれも失敗で、愛らしい弟の眉根はますます釣りあがり、東方の般若のお面のようだ。

だが、「美人は怒っても美人」という通説どおりに彼の弟も例に漏れずに美人のままだ。もしくは怒った顔がキレイなのが本当の美人のほうか。

本当に美人の弟は紅潮した頬も艶かしくたまらなく色っぽい。

いつもの柔らかい清純なイメージと変わって、これはこれで良いかもしれない。

「ブラザー?あなた今なに考えてます?」

さすがは弟。兄のにやけた面になにかを感じとったらしい。

その奥に何か黒く渦巻く物を押し込めた笑顔が怖いぞ弟よ。

「いやいや。弟が美人でお兄ちゃんは嬉しいぞアレン。というわけで俺とめくるめく世界へ旅立とう。ディア・ブラザー?」

最上の笑顔と滴るような色気を混ぜた低音ボイスで囁いてみたが、これもだめ。

「一人で逝ってください!!マイ・ブラザー!!」

細い腕を振り上げて、怒りの一撃。

それをひょいひょいと交わしつつ、またまたの戦闘開始に兄は溜息一つ。

弟はといえばその仕草にますます怒り心頭のご様子で。

これで何度目だろうとちょっと意識を遠のかせつつ、小休止を終えて連続7日目の攻防戦に突入開始と相成りました。

 

聖書にある洪水の日のように、七晩目には終わりが見えればいいのだけれど!

 

朝日煌めく本日も、兄弟喧嘩は続きます。

 

 

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